更新日:2026年9月11日
施設園芸を営む多くの生産者は、夏の猛暑による収量低下や品質のばらつきを解決するため、換気扇の増設、遮光ネット、細霧冷房など、さまざまな高温対策を講じていらっしゃいます。しかし、それらの対策にもかかわらず、夏の猛暑が引き起こす生産性の不安定化は、依然として経営上の大きな課題として立ちはだかっています。なぜ、これほど多くの努力と投資を行っているにもかかわらず、根本的な解決に至らないのでしょうか?その原因は、作物の生育を促す「地上部」の環境だけでなく、見過ごされがちな「土の中」、つまり根の環境に潜んでいる可能性が高いのです。このセクションでは、その具体的なメカニズムについて詳しく掘り下げていきます。
近年の日本の夏は記録的な高温化と長期化が進み、施設園芸の経営において設備コスト増加、作業環境悪化、そして最も深刻な作物収量・品質の著しい低下という複合的な課題を突きつけています。
※気象庁「全国(13地点平均)の猛暑日の年間日数:https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/extreme/extreme_p.html?select_elem=max35up
気象庁のデータが示すように、猛暑日や熱帯夜の増加・長期化は作物の生理機能に直接的な悪影響を及ぼし、光合成能力の低下、花落ち、着果不良、果実の肥大不足、糖度低下、裂果といった「高温障害」を引き起こし、生産計画の狂いや収益性の悪化を招く喫緊の課題となっています。
このような極端な高温環境下において、換気や遮光といった従来の高温対策だけでは、もはや作物や経営を守りきれない状況にあります。多くの施設園芸農家様が導入されている換気システムや遮光資材は、ハウス内の気温を物理的に下げる上で一定の効果を発揮しますが、外気温が常識を超えるレベルに達する状況では、植物の生育に適した温度を維持することに限界があります。
ハウス内の気温管理に注力するあまり、作物の土台である土壌環境を見過ごされていませんか? 近年の猛暑において、多くの生産者様が換気や遮光といった地上部の対策に多大な労力とコストを投じています。しかし、それらの努力にもかかわらず、なぜか収量が安定しない、品質がばらつくといった課題が残る場合、その原因は「土の中」にある可能性が高いです。
作物の生育は、根が健全に機能して初めて成り立ちます。土壌環境が最適でなければ、どんなに地上部で環境を整えても、植物はそのポテンシャルを最大限に発揮できません。高温対策における最大の死角は、土壌環境と根の健康にあります。この課題を解決することこそが、猛暑の夏でも安定生産を実現するための鍵となります。
地温が上昇すると、作物の根には深刻な悪影響が及びます。まず、高温環境下では根の呼吸が過剰に活発になり、植物は生命維持に必要なエネルギーを通常よりも多く消費してしまいます。これは、まるで人間が炎天下で激しい運動をするようなもので、必要以上のエネルギーを消耗することで、本来成長に使うべきエネルギーが枯渇してしまうのです。
その結果、根の最も重要な機能である吸水・吸肥能力が著しく低下します。水分や養分を十分に吸収できなくなると、地上部は水分不足によるしおれや、養分不足による生育不良を引き起こします。さらに深刻な問題は、高温対策として行われる頻繁なかん水が、土壌の過湿を招くことです。過湿状態の土壌では、土の隙間が水で満たされ、土中の酸素が極端に不足します。これが「土中の酸欠状態」です。
この状態に陥ると、土壌微生物は好気呼吸から嫌気呼吸に切り替わります。嫌気呼吸は非常に効率が悪く、根に有害な物質(有機酸など)を生成するため、根は健全な状態を保てなくなります。結果として、根へのダメージが進行し、植物全体の生育が停滞し、最悪の場合は枯死に至ることもあります。地温上昇と土中の酸欠状態は、作物の収量低下や品質劣化の直接的な原因となる、見過ごせない問題なのです。
健全に発根し、地上部の生育良好
酸欠により根はりが悪い様子
健全な根は、植物が生命を維持し、成長していく上での「土台」であり、収量や品質を安定させるための最も重要な要素です。先ほど説明したように、地温上昇や土中の酸欠状態によって根の機能が低下すると、植物は必要な水分や養分を十分に吸収できなくなります。そうなると、たとえハウス内で最適な光量、温度、湿度、CO2濃度といった地上部の環境を完璧に制御したとしても、植物は栄養失調状態に陥り、その生育ポテンシャルを最大限に引き出すことはできません。
例えば、光合成で作られた糖分は、根の成長や果実の肥大に利用されますが、根の機能が落ちているとこれらの生産活動が滞ります。これにより、果実の糖度が上がらなかったり、着果数が減少したり、あるいは形状が不揃いになったりするなどの品質低下に直結するのです。多くのベテラン農家様が「強い植物は、強い根から作られる」と言うように、植物の抵抗力や回復力も健全な根がなければ維持できません。
猛暑のようなストレスの多い時期を乗り切るためには、根がいかに健康な状態を保てるかが最重要課題となります。根が健全であれば、多少の環境ストレスにも耐え、安定して水分や養分を供給し続けることができるため、結果的に収量と品質の安定に繋がるのです。高温期において、収益の安定化を目指す生産者様にとって、根の健康は決して見過ごせない投資対象だと言えるでしょう
土壌中の酸素濃度に応じた肥料の吸収率・根の重量(キュウリ)
高温と過湿によって引き起こされる土中の酸欠状態こそが、作物の活力を奪う主要な原因です。その酸欠状態を直接的に解消する、これまでの対策とは一線を画す「土壌への酸素供給」という新しいアプローチについて詳しくご紹介します。この方法が、なぜ根本的な解決策となりうるのか、具体的な仕組みとともに解説していきます。
「酸素供給剤」とは、その名の通り、植物の根が呼吸するために必要な酸素を土壌中に直接供給するための資材です。土壌改良材や肥料とは異なり、その主な目的は「根に酸素を届ける」ことにあります。多くの場合、酸素供給剤は過酸化物などの化合物で構成されており、これらが土壌中の水分や金属、有機物と反応することで、ゆっくりと酸素ガスを発生させます。この酸素が、根の周囲の土壌空隙に供給され、根が健全に呼吸できる環境を整えるのです。特に、高温多湿な環境下で土壌が過湿になり、酸素が不足しがちな状況において、この酸素供給剤は根の活動を強力にサポートします。近年注目されているバイオスティミュラントの一種として、植物本来の生理機能や抵抗力を高める効果も期待されており、単なる栄養補給ではない、新しいタイプの土壌管理資材としてその価値を高めています。
酸素が根の活性を高め、高温・過湿ストレスを軽減するメカニズム
土壌への酸素供給は、植物の根の健康と活力を最大限に高め、高温や過湿といった複合的な環境ストレスを効果的に軽減します。酸素供給は、主に以下の3つのメカニズムによって根のパフォーマンスを飛躍的に向上させます。
第一に、根の呼吸が正常化され、植物の成長に必要なエネルギー効率が飛躍的に向上します。酸素不足によるエネルギー生産の低下を防ぎ、健全な生育を促します。第二に、根の吸水・吸肥能力が回復・強化されます。これにより、たとえ地上部が高温であっても、根は土壌中の水分や養分を効率良く吸収し、植物全体を力強く支えることができます。第三に、土壌中の有益な好気性微生物の活動が活発化します。これは有機物の分解を助け、病原菌を抑制し、根が育つ土壌環境を良好に保つことに大きく貢献します。このように、酸素供給は植物が厳しい環境下でもその性能を最大限に発揮するために不可欠な要素です。
酸素供給剤は、その形状や特性によって複数のタイプがあります。圃場の状況や栽培している作物の種類、そして対策の目的に合わせて最適なものを選ぶことが、効果を最大化するための鍵となります。このセクションでは、主に「粒剤」と「液剤」の2つのタイプについて、具体的な特性と効果的な使い方を詳しくご紹介します。
「粒剤」タイプの酸素供給剤は、土壌中で持続的に酸素を放出し続ける特性を持っています。この持続性こそが、作付け前の圃場準備や元肥と同時に使用するのに最適な理由です。例えば、定植前に元肥と一緒に土壌に混和することで、栽培期間を通して根圏に安定した酸素を供給し続ける土台を築くことができます。これにより、根は生育の初期段階から健全に張ることができ、高温期や長雨による過湿状態に陥りやすい時期でも、根腐れのリスクを低減しながら活発な活動を維持できます。
このような予防的なアプローチは、いわば作物の生育における一定期間をカバーする保険のようなものです。夏の猛暑や想定外の長雨といった天候不順は、年々激しさを増しており、栽培計画に大きな影響を与えかねません。しかし、事前に土壌環境を整えておくことで、植物が持つ本来のストレス耐性を高め、こうした外部環境の変化に左右されにくい、安定した生育サイクルと栽培計画を実行できます。結果として、収量や品質のブレを最小限に抑え、経営の安定化に大きく貢献するでしょう。
「液剤」タイプの酸素供給剤は、水に溶かして使用するため、土壌に施用するとすぐに酸素供給を開始する即効性が最大の特長です。この特性を活かし、生育中の追肥として、あるいは高温や長雨によって根の活力が低下している際の緊急対策として非常に有効です。例えば、夏場の高温期に作物の葉がしおれ気味になったり、生育が停滞したりする兆候が見られた場合、灌水チューブなどを通じて液剤を施用することで、速やかに根圏に酸素を供給し、根の呼吸を促して活力を回復させることができます。
また、トマトやキュウリなど、果実の着果負担が大きい作物においては、特定の生育ステージで根に大きなストレスがかかりがちです。このような時期に液剤を定期的に施用することで、根の吸水・吸肥能力を維持・向上させ、果実肥大や品質向上をサポートする「ブースト」効果も期待できます。液剤は、ピンポイントで必要な時に必要なだけ酸素を供給できるため、生育状況に応じたきめ細やかな管理が可能となり、予期せぬトラブルへのアプローチとしても、非常に使い勝手の良い資材と言えるでしょう。
▼酸素供給材(液剤タイプ)に興味があるかたはこちらから
これまで酸素供給剤の理論的なメカニズムや使い方について解説してきましたが、やはり経営者の皆様が最も重視されるのは「実際に現場でどのような効果が出ているのか」という点ではないでしょうか。ここでは、データや再現性を重視される皆様のために、実際の生産現場で酸素供給剤を導入された事例をご紹介します。具体的な作物名や直面していた課題、そして酸素供給剤の導入によってどのように改善されたのかを見ていきましょう。
1m当たりの収穫物
1本ずつの太りが良く、本数も多い
1m当たりの収穫物
太りが足りず、本数も少ない
ネギ栽培では、高温多湿期に土壌中の酸素不足が原因で「根痛み」と呼ばれる症状が発生しやすく、これが進行すると土壌病害の影響を受けやすく、収量や品質の低下を招くことが長年の課題でした。あるネギ農家様では、夏場の生育不良に悩まされており、既存の対策だけでは十分な効果が得られない状況でした。そこで、作付け前の土壌に粒剤タイプの酸素供給剤を施用したところ、根張りが著しく改善し、白い元気な根が圃場全体に増えていることが確認されました。
酸素供給剤によって根圏環境が改善されたことで、根が健全に生育し、結果として地上部の生育も旺盛になりました。具体的には、ネギの葉色が濃くなり、葉鞘径が大きくなったため収穫時の重量も増加しました。さらに、病害への抵抗力も高まったことで、欠株の発生が抑制され、出荷できる規格品の本数・割合が向上し、結果として収益の安定化につながったと報告されています。この事例は、根の健康が地上部の健全な生育、ひいては収量・品質安定の鍵であることを明確に示しています。
作物の根は植物の生命線であり、健全な根が光合成能力の最大限の発揮と、効率的な水分・養分吸収を支えます。しかし、高温期は土中の酸欠を引き起こし、これが植物の活力を奪い、収量減や品質低下の一つの原因となっています。
この根の酸欠状態を解消する有効な手段が「酸素供給剤」です。土壌に直接酸素を供給することで、根の呼吸を正常化し、吸水・吸肥能力を回復させ、植物本来の抵抗力を高めます。これは、既存の地上部対策を補完する土壌改良策となります。
安定した栽培計画を実行するには、気候変動に「耐える」だけでは不十分です。視点を「土壌」に移し、作物の根が持つ力を最大限に引き出す環境を整えることが、持続可能な施設園芸経営には不可欠です。今年の高温対策に土壌環境の見直しという新たな一手を取り入れ、猛暑に負けない安定経営を実現しましょう。