TOPメッセージ

代表取締役社長 松本 祐人

変化を待たず、自ら未来を切り拓く
次の100年に向けた、非連続な成長への挑戦

代表取締役社長 松本 祐人

「待っていれば良くなる時代」の終焉

 当社は2026年に創立110周年という大きな節目を迎えました。保土谷化学がこうして110年におよぶ歴史を重ねてこられたのは、お客様・お取引先様、株主・投資家の皆様、地域・社会の皆様、そして役職員一人ひとりの支えがあったからであり、心より感謝申し上げます。
 記念すべき年を迎えた一方で、私は今、当社がかつてない歴史的転換点に立っているという強い危機感を抱いています。かつてであれば、外部環境が悪化しても「景気循環の波がいずれ回復をもたらす」という前提のもとで事態の好転を待つ経営が許容される面もありました。しかし現在、私たちが直面しているのは単なる景気サイクルではありません。地政学リスクの常態化、産業構造の激変、経済安全保障に伴うサプライチェーンの断絶と再構築など、経営の前提そのものを覆す「不可逆な構造変化」です。原燃料・エネルギー価格の高止まりや中国における過剰生産設備による市況下落に加え、国内での深刻な人手不足も企業経営をより複雑なものとしています。
 また、海外売上高比率が5割を超えている当社であっても、「円安頼みで業績が底上げされる」といった追い風依存の成功方程式に頼ることはできません。「待っていれば良くなる」という受動的な経営姿勢と完全に決別し、自らの手で未来を切り拓く高付加価値企業へと劇的に脱皮しなければ、この激動の時代を生き抜くことは不可能です。この強い危機感と決意こそが、新中期経営計画「コード(CODE/CHORD)2030」(2026年度~2030年度)の出発点となっています。

「SPEED 25/30(フェーズ1)」の成果と次なる課題

 前中期経営計画「SPEED 25/30(フェーズ1)」を振り返ると、成果と課題の両方が見えてきました。売上高は、目標の500億円に対して480億円まで到達しました。機能性色素セグメント、とりわけ韓国SFC社への集中投資を結実させ、有機EL材料事業がグループの収益を牽引する柱へと成長したことは大きな成果です。非財務面においても、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言への賛同やCO2フリー電力の導入によって温室効果ガス削減目標を大幅に前倒しで達成したほか、株主還元ではDOE(株主資本配当率)を意識した5期連続の増配を実現いたしました。
 一方で、利益面においては極めて厳しい結果となりました。連結営業利益は目標の半分にとどまり、大幅な未達に終わったことを重く受け止めております。その要因としては、変化の速い有機EL市場で優位性を保つための設備投資や研究開発費が膨らみ、減価償却費をはじめとする固定費負担が重くのしかかったことが挙げられます。さらに、中国における過剰生産に伴う汎用品価格の下落により機能性樹脂事業が苦戦を強いられたこと、そして何より有機EL材料に続く「第2・第3の柱」の確立が遅れ、事業ポートフォリオが硬直化したことが解決すべき大きな課題として残りました。
 しかし私は、これまでの先行投資そのものを失敗だったとは捉えておりません。PCR診断キット材料や韓国SFCのBioPark、忠州(チュンジュ)・陰城(ウムソン)キャンパスへの投資をはじめ、将来の飛躍に向けた「攻めの種まき」を着実に進めてまいりました。真の反省点は、投資そのものではなく「果実を刈り取る(収益化する)スピード」が想定より遅かった点にあります。前例踏襲の歩みでは、既存事業の維持はできても非連続な成長は望めません。だからこそ、強固な基盤があり利益を生み出せている今のうちに果敢にリスクを取り、次なる成長ステージへ踏み出す――。この固い決意のもと、私たちは新中期経営計画へと舵を切ったのです。

「コード(CODE/CHORD)2030」── 今の延長線上ではない「非連続な成長」への挑戦

 2026年度に始動した新中期経営計画「コード(CODE/CHORD)2030」は、前中計の単なる延長(フェーズ2)ではありません。計画策定にあたっては、役員合宿において膝を交えた徹底的な議論を実施しました。そこで経営陣全員が共有したのは、「これまでと同じやり方を続けているようでは、未来はない」という切迫した危機感でした。
 前中期経営計画「SPEED 25/30」は、2050年までのメガトレンドを見据え、2030年度の「ありたい姿」からバックキャストして10年間のシナリオを描き、その中間地点として2025年度の「目指す姿」を設定したものでした。しかし実行過程において、目の前の課題対応に追われた結果、本来バックキャストであるべき発想が、いつの間にか過去の延長線上で現状を積み上げる「フォアキャスト」へとすり替わってしまっていたのです。この反省を踏まえ、今回は山登りに例えるならば、目指すべき頂上のレベルをさらに一段高く再設定した上で、そこへ至る登り方(アプローチ)そのものを根本から刷新することといたしました。
 その新たな登り方とは、先に「器」を用意する投資パラダイムの転換やM&Aの活用、人的資本・財務戦略の刷新など、多角的な構造改革に他なりません。なかでもその中核となるのが、自前主義から脱却し、スピード感を最優先に外部との「共創」を推し進めていく姿勢です。この強い覚悟を命名に込めたのが「コード(CODE/CHORD)2030」です。「CODE」には、医療現場の緊急事態で発令される「コードブルー」のように、合図とともに全役職員が自身の役割を自律的に理解し一斉に動き出す「機動的な組織」への変革という意味を込めました。そして「CHORD(和音)」には、自社内だけで完結させることなく、社外の優れた知見や技術と響き合い、互いの強みを掛け合わせて新しい価値を創出していくという決意を表しています。

経営目標(財務目標)

経営目標(財務目標)

第2、第3の柱を創る
── 核酸医薬CDMO(受託開発製造)事業と半導体関連材料事業

 有機EL材料事業に続く新たな成長エンジンとして、私たちが「第2・第3の柱」に位置付けているのが、「核酸医薬CDMO」と「半導体関連材料」の2つの事業です。
 なかでも核酸医薬CDMO事業は、当社の新ビジョンである「独創をミガキ、共創でヒラク」を最も体現する取り組みであり、すでに具現化に向けた動きが本格化しています。がんや希少疾患の治療薬として期待される核酸医薬品は急速な市場拡大が見込まれており、黎明期である今こそ挑戦する大きな意義があります。ここでも私たちは、自前主義にはこだわりません。保土谷化学が持つグローバルな販売網や資金力、韓国SFCのオリゴ核酸合成技術、そして高度なGMPのノウハウを持つ有機合成薬品工業、それぞれの強みを持ち寄る協働体制を構築していきます。郡山工場におけるGMP対応製造設備の新設も進め、研究段階から臨床初期までをスピーディーに進められる小回りの利いた開発・生産体制を築き、高付加価値なニッチトップを目指してまいります。
 もう一つの柱である半導体関連材料事業は、生成AIの爆発的普及やデータセンター需要の急増に伴い、従来の景気循環を超えた構造的な需要拡大が続いています。回路の微細化が進む半導体分野では、不純物を極限まで取り除く技術が不可欠です。こうした高度なニーズに対して、私たちが有機EL材料事業で培ってきた世界トップレベルの「超高純度精製技術」や「精密有機合成」が大きな強みとなります。前工程のレジスト材料から、次世代のチップ積層を支える後工程材料まで、自社技術の応用と外部との共創を通じて、後発だからこそ提供できる独自の価値を追求してまいります。
 これら2つの事業は、時間をかけて育つのを待つのではなく、自らスピードを上げて市場を切り拓いていく攻めの領域です。グループの総力を結集し、早期の収益化に向けて取り組んでまいります。

事業セグメント別 ポートフォリオの方向性

事業セグメント別 ポートフォリオの方向性

「時間を買う」経営 ── 投資パラダイムの大胆な転換

 変化の激しい現代において、ゼロから技術や市場が育つのを待っている余裕はありません。市場のスピードに後れをとらないため、私たちは自前主義にこだわらず、M&Aや資本提携を積極的に活用して「時間を買う」戦略を機動的に実行していきます。2026年3月に決定したハンガリーのFramochem社の完全子会社化は、欧州市場におけるグローバル・ニッチトップの地位を一気に獲得する、まさにこの考え方に基づく戦略的判断です。
 設備投資についても、発想を大胆に転換します。これまでのように「需要を確実に見極めてから動く」という受動的なスタイルでは、今の時代、大きな機会損失を招きかねません。建設費の高騰や深刻な人手不足が進む中、ビジネスチャンスを的確に捉えるため、将来を見据えて拡張性を持った「器」を先に用意する攻めの姿勢へと舵を切りました。もちろん先行投資にはリスクが伴いますが、不確実な時代においては「リスクを恐れて何もしないこと」こそが最大の経営リスクであると私は考えています。
これら非連続な成長投資を支えるため、財務戦略も大きく見直しました。当社はかつて売上高に匹敵する有利子負債を抱えた時代から経営を立て直し、実質無借金と言える強固な財務基盤を築き上げました。しかし現在は、ただ自己資本比率が高いというだけでは、資本市場から評価される時代ではありません。これからは、自己資本比率45%程度という健全な水準を維持しつつも、適切なレバレッジを利かせた資金調達を行い、成長投資へダイナミックに振り向けてまいります。「分母」(資本)を削るような縮小均衡に陥ることなく、成長戦略を着実に実行し、売上と利益という「分子」を飛躍的に増やす。これこそが、持続的な企業価値向上を実現する道だと確信しています。

「人が変われば、会社は変わる」── 人的資本経営の本質

 私は、結局のところ「人が全て」だと思っています。どれだけ優れた技術や設備があっても、それを新たな価値に結び付けるのは人だからです。そうした考えから、私たちは「優秀な人材確保と働きやすさの向上」「評価と報酬のオープンネス」「成果を分かち合う仕組み」の3つを、人的資本経営の軸に据えています。社員一人ひとりが会社のビジョンに共感し、自発的に挑戦し、その成果がフェアに評価される環境を整えることが、持続的な成長の原動力となります。
 この「成果を分かち合う仕組み」の象徴として、今年度より株式給付信託(J-ESOP)の対象を、グループ会社を含む全社員へと拡大しました。これは単なる福利厚生ではなく、社員一人ひとりに「株主」としての視点を持ってもらうための戦略的な投資です。会社の成長と自らのリターンが直結する仕組みを通じて、会社の未来を「自分ごと」として捉える社員を増やすことが、持続的な企業価値向上につながると信じています。
 さらに、事業変革のスピードを引き上げるには、リスキリングやキャリア支援による社内人材の活性化に加えて、外部からの新しい知見も不可欠です。人材獲得においても、根底にあるのは『時間を買う』という発想です。専門性の高い人材や多様な経験を持つマネジメント人材のキャリア採用を機動的に進めることで、組織に良い刺激を与え、会社の成長スピードをさらに高めてまいります。

「良い失敗」を許容し、挑戦を称える組織風土へ

 どれほど魅力的な成長戦略を描き、制度を整えたとしても、実行する現場が「失敗を恐れて守りに入る」ようでは成果は生まれません。私たちが目指すのは、単に結果の成否だけで判断するのではなく、新しいことへ果敢に挑んだプロセスも含めて評価する組織風土です。実際、核酸医薬CDMO事業の立ち上げに際して社内公募を実施したところ、組織の枠を超えて意欲ある社員が多数手を挙げてくれました。志を共にする仲間とともに、新しい価値を切り拓こうと意欲を示す社員が育ってきていることを、大変心強く感じています。
 こうした現場の主体的な挑戦を制度面からもしっかりと支えるため、本年4月に「混合型ジョブ型人事制度」を導入しました。従来のメンバーシップ型が持つ組織の一体感や育成の良さを活かしつつ、役割や成果、そして挑戦のプロセスを適正に評価するとともに、実力のある人材には年齢にかかわらず責任ある役割を任せる仕組みへと刷新しています。
 一連の改革の根底にあるのは、創業時に確実に存在した「本邦嚆矢」のチャレンジ精神を、今の時代に再び呼び覚ますことです。前例踏襲の易きに流れることなく、失敗を恐れずに常に新しい価値創造へ挑み続ける企業文化を、社内にしっかりと根づかせてまいります。

「現場に答えがある」── 三位一体の推進と現場力の最大化

 私自身、これまで長年にわたり多様な現場に携わる中で、「価値創造の原点は常に現場にある」という確信を深めてまいりました。どれほど魅力的な成長戦略を描いたとしても、市場やお客様の課題を捉え、技術の壁を突破し、最終的に収益を生み出すのは現場に他ならないからです。現場で働く社員一人ひとりの気づきや創意工夫、そして「もっと良くしたい」という情熱こそが、保土谷化学の競争力の源泉です。
 この現場力を単なる「個人の頑張り」で終わらせず、組織的な強みへと昇華させる仕組みが「三位一体」の推進です。研究開発、生産、営業の各部門がそれぞれの専門性を発揮しながらも、組織の壁を越えて初期段階から密接に連携する。市場ニーズや顧客課題の把握から、技術の製品化、そして確実な製造と安定供給へとつなぐ一連の連携サイクルを高度に研ぎ澄まし、加速させていく──これこそが、当社の事業スピードと収益性を決定づけるカギとなります。
 変化の激しい今だからこそ、現場の智慧を結集し、三位一体のサイクルをこれまで以上に強固に回転させることが何より重要だと考えています。安全と品質、そして安定操業という化学メーカーとしての絶対的な礎(いしずえ)を堅固なものとしつつ、現場の総合力をいっそう高めていくこと。これこそが、非連続な成長を足元から支え、当社ならではの強みを揺るぎないものにすると確信しています。

資本市場との対話と実効性あるガバナンス

 中長期的な企業価値向上を果たすためには、資本市場との建設的な対話と、それを支える実効性のあるガバナンスが不可欠です。私たちは、新中計において「ROE 8%」「DOE 3%以上」という目標を掲げています。この達成に向けた資本効率の向上にあたり、単に自己資本を小さくするような「縮小均衡」の経営は行いません。適切なレバレッジを利かせた資金調達を行い、積極的な成長投資によって利益(分子)を大きく伸ばしていく──これこそが当社の採るべき道であり、喫緊の課題である「PBR 1倍割れ」も早期に乗り越えてまいります。
 こうした明確な財務戦略を推進するとともに、対話を通じて株主・投資家の皆様からいただいた貴重なご意見は、取締役会での議論や経営戦略のさらなる洗練へと真摯に反映させてまいります。
 ガバナンス面においては、指名・報酬委員会の機能を軸とした経営トップのサクセッションプラン(後継者計画)の透明性の高い運用や、多様な知見を持つ社外取締役との活発な議論を通じ、果敢なリスクテイクと健全な牽制機能を高次元で両立させています。
 市場からの期待や厳しい眼差しに正面から向き合い、結果で応えていく姿勢こそが、経営に健全な規律をもたらすと考えています。今後も真摯な対話を重ね、PBRの早期改善をはじめとする成果を着実にお示しすることで、資本市場からの信頼をより一層確固たるものにしてまいります。

次の100年も「社会になくてはならない企業」であるために

 創立110周年という節目の年は、私たちが重ねてきた歩みを振り返るだけでなく、創業時の原点に立ち返り、次の100年に向けた確かな一歩を踏み出す契機となります。これまでの歴史の中で育んできた確かな技術と信頼を礎(いしずえ)に、社会課題の解決に資する新たな価値を創出し続けていくこと──これこそが、私たちの果たすべき使命です。
 その原動力となるのは、創業期から脈々と受け継がれてきた「本邦嚆矢」の精神であり、三位一体の現場力と社員一人ひとりの情熱です。私たちは既存の発想にとらわれず攻めの姿勢を貫き、高付加価値企業への変革を推し進め、目まぐるしく変化する社会環境のなかでも確固たる成長軌道に乗せてまいる所存です。
 保土谷化学が紡ぎ出す新たな価値と今後の持続的な成長にぜひご期待いただき、ステークホルダーの皆様におかれましては、今後とも変わらぬご支援を賜りますよう、心よりお願い申し上げます。